3.9. アンシャープマスク...

3.9.1. 概観

図16.30 アンシャープマスクの適用例

アンシャープマスクの適用例

元画像

アンシャープマスクの適用例

アンシャープマスクフィルタ適用後


ピントのぼけた写真やデジタル化したほとんどの写真はしばしば明晰化の修正が必要になります。 これはデジタル化処理の過程で元は単色だった塊を少し違う色の混じった点の集まりに切り刻んでしまうためです。 抽出用振幅よりも細かく描かれた物体は色が平均化され単色になってしまいます。 そのため輪郭が僅かにぼやけて描画されるのです。 同様の現象は色のドットで紙に印刷するときにも発生します。

アンシャープマスク... (直訳は非明晰化マスクですからまぎらわしいですね) は物体の輪郭を鮮鋭化します。 ノイズや汚れが増えることはありません。 シャープ化フィルタの王者です。

[ヒント] ヒント

デジタルカメラやスキャナのような画像化デバイスには取り込んだ画像をシャープ化する機能が付いているものがあります。 でもデバイス付属のこのようなシャープ化機能のスイッチは切っておき、 代わりにGIMPのフィルタを利用されることを強くお勧めします。 そうすればあなたの手で画像の明晰化処理にかかる全面的な制御が可能になるからです。

シャープ化の際に色の歪みが起こるのを防ぐため、 画像をHSVにチャンネル分解して明度Vチャンネル上にだけフィルタをかけるとよいでしょう。 そのあとまたHSV画像に合成するのです。 まずは画像ウィンドウのメニューより 色要素チャンネル分解... コマンドでダイアログを開きます。 必ず 分解したチャンネルをレイヤーに展開 にチェックを入れてください。 取り出すチャンネルHSVを選択して OK をクリックします。 これで3層の灰色濃淡で描かれたレイヤーからなる画像が生成されます。 レイヤーはそれぞれ色相、 彩度、 明度を表しています。 (混乱しないために元画像は閉じておきましょう。) 明度レイヤーを選択したらここでシャープ化フィルタを適用します。そのあとは同じレイヤーを選んでから処理を逆に辿ります。 画像ウィンドウのメニューより 色要素チャンネル合成... と進み、 再びHSVを選択してから OK ボタンをクリックします。 これで元の画像から明度の要素でシャープ化されたものが手に入ります。

3.9.2. フィルタの呼び出し方

画像ウィンドウのメニューより フィルタ強調アンシャープマスク...

3.9.3. オプション

図16.31 アンシャープマスクフィルタのオプション

「アンシャープマスク」フィルタのオプション

プレビュー

プレビュー オプションを有効にしておれば画像に実際にフィルタをかける前からダイアログ上で調節したとおりに即座に効果のようすが見て分かるようになっています。

半径

スライダや数値記入欄で、 シャープ化される輪郭周辺の画素数を決めることになる値を 0.1 から 120.0 の範囲で設定します。 高解像度の画像なら半径に大きな値がとれます。 画像のシャープ化はいつもその最終解像度で行なう方が良いでしょう。

このスライダや数値記入欄でシャープ化の強度が設定できます。 値の範囲は 0.00 から 5.00 です。

しきい値

このスライダや数値記入欄で、 輪郭がシャープ化を受けるかどうかを示す画素の値の最小差異を設定できます。 値の範囲は 0 から 255 です。 これを用いてシャープ化を受けたくない滑らかな色変化の部分を守れますので、 天空や水面のような被写体に汚点を作らずに済みます。

3.9.4. アンシャープマスクが効くわけ

アンシャープマスクを用いて画像をシャープ化するというのも何だかおかしな話です。 説明しましょう。

コントラストがひとつある画像について考えます。 コントラストがある線上の画素の強度曲線は急激な変化を見せます。 コントラストが完璧に鋭ければ階段状に、 ぼかしが入ればS字を描きます。

さてここにぼやけた画像があり、 これをシャープ化 (黒で示したグラフのように) したいと考えているとします。 この画像にさらにぼかしをかけます。 強度の変化が (緑の曲線のように) もっとなだらかになるでしょう。

ぼかしが現れている強度をこの画像の強度から除算しましょう。 その結果赤い曲線ができました。 険しさが増していますから、 コントラストや明晰さが増しました。 証明完了。

アンシャープマスクは銀塩写真で使われたのが最初です。 この写真ははじめに、 元のネガフィルムと[ポジ]フィルムの間に薄いガラス板をはさみ貼り合わせて画像を写しとります。 この方法は光の拡散が起こるためぼやけた複写ができます。 そのつぎに紙に印画するためその対になった両方のフィルムを写真引き伸ばし装置に置きます。 元のネガフィルムのクリアな部分を通る光は対照的なぼやけたポジフィルムの暗い部分で通過が遮られることから、 元のフィルムを通る光からの減算となるのです。

デジタル化写真ではGIMPだとつぎのような工程を経ます。

  1. 画像を開いたら複製をとります。 画像複製

  2. 複製側でレイヤーのコピーをとります。 レイヤーレイヤーを複製 つぎに フィルタぼかしガウシアンぼかし... を初期設定のIIRオプションと半径が5の設定でコピーのレイヤーにかけます。

  3. 複製側の画像においてレイヤーダイアログでぼかしのかかったレイヤーのモードを 減算 に設定し、 下のレイヤーと統合させます。

  4. こうしてできたレイヤーをレイヤーダイアログでクリックして元の画像のウィンドウ上までドラッグして放つと、 新しいレイヤーになります。

  5. この新たなレイヤーのモードをレイヤーダイアログで 加算 に設定します。

ほらこのとおり、 アンシャープマスクプラグインと同じ処理のできあがりです。

グラフ上で曲線のはじまりがくぼんでいますね。 ぼかし処理が重くなると、 このくぼみがとても深くなります。 結果的に減算が負の値を生み、 コントラストのある部分に沿って補色のすじができたり、 明るめの星雲を背景に見える星のまわりに黒い暈 (ハロー) ができるのです (黒目効果)。

図16.32 黒目効果

黒目効果