3. 描画ツール

図13.37 描画ツール (ツールメニュー)

描画ツール (ツールメニュー)

3.1. 共通機能

GIMPツールボックスには13種類の描画ツールがあり、 (初期設定での配置では) 底部寄りにすべてまとまっています。

図13.38 描画ツール (ツールボックス)

描画ツール (ツールボックス)

以上のツールの共通点は、 マウスポインタを画面上で滑らせてブラシ描画を行う機能です。 このうち、

の4つのツールはブラシで塗る直観通りのはたらきをします。 鉛筆で描画、 ブラシで描画 (絵筆)、 エアブラシで描画の3つは基本的な描画ツールという位置付けのため ブラシツール と呼ばれています。

それ以外のツールは塗るのとはまた違った方法でブラシによる画像の加工を行います。

があります。 GIMPでマウスではなくタブレットを使用した場合の利点が最も強く現れる場面はおそらくブラシツールを使うときでしょう。 高感度コントロールで得られる情報は他には替えがたいものです。 これらのツールには特別にタブレットでのみ利用できる筆圧感知オプションがついています。

通常利用される受け渡しのしくみに加え、 ブラシツールを利用するより自動化された連携があり、 選択ツールやパスツールが作った境界線を描画することができます。 ここで使うブラシツールはどれでもよく、 消しゴムやにじみツールなど特異なものも使えます。 使えるオプションも同じです。 詳しくは 境界線を描画 についての章をご覧ください。

3.1.1. キー修飾

Ctrl

どの描画ツールも Ctrl キーを押しながら使うと特別な効果があります。 鉛筆、 絵筆、 エアブラシ、 インク、 消しゴムの各ツールはスポイトに変身し、 画像をクリックすると現在のレイヤーのその場所の画素 (ピクセル) から色を拾い出してGIMPの描画色とします。 ただし消しゴムツールだけはGIMPの背景色とします。 スタンプで描画ツールでは Ctrl キーを押している間にクリックした場所が参照始点になります。 ぼかし/シャープツールは Ctrl キーを押すとぼかしモードから際立たせモードに切り替わります。 暗室ツールは覆い焼きから焼き込みにモードが交替します。

Shift

すべての描画ツールに同様の効果があるのが Shift キーです。 直線 が引けるモードに変わるのです。 どの描画ツールの場合も直線の引くにはまず始点をクリックして、 その後に Shift キーを押します。 キーを押したままでポインタを移動すると始点と現在地を繋ぐ細い線が示されます。 Shift キーを押し続けながらそこで次の点を打つと、 直線が描かれます。 この動作を繰り返すと線分が繋がって描けます。

Ctrl+Shift

両方のキーを押した状態でのブラシツールは 制限つきで直線を 引くモードになります。 使い方は Shift キー単独での方式と同じですが、 線の傾きは全方位を 24 分割した 15 度刻みの方向のうち最も近いものが選ばれます。 この制限は水平線や垂直線、 あるいは対角的な配置の斜線を引くときに便利です。

3.1.2. ツールオプション

図13.39 すべての描画ツールが共有するツールオプション

すべての描画ツールが共有するツールオプション

大多数のツールオプションがいくつかの描画ツールで共有されています。 ここでそれらのオプションについて説明します。 その他のオプションのうちツール個別で独自に持つものやごく一部で共有されているものは、 それぞれのツールの節の中で説明します。

モード

モード ドロップダウンリスト (引き出しリスト) から描画の適用モードが選べます。 モードが果たす役割について理解するには 不透明度 に対するのと同じく、 ちょうど画像の上に描画を実施するためのレイヤが別にあって、 そのレイヤーが画像と結合する態勢 (モード) をレイヤーダイアログで指定するところを想像されると最も分かりやすいでしょう。 モード指定によって多彩な計り知れない特殊効果が得られます。 モードオプションが利用できるのは画像に色を描き加えるツール (鉛筆、 絵筆、 エアブラシ、 インク、 スタンプ) に限られます。 それ以外の描画ツールでは利用できませんが、 ダイアログの統一感をはかる目的で灰色無効表示とされています。 「レイヤーのモード」 に関しては実例を挙げて説明しています。

中には 後述 のような独特なものもあります。

不透明度

不透明度スライダはブラシ操作での透明度レベルを設定します。その効果を理解するには、 現在のレイヤーに直接描いているのではなく、 このツールによってその上に新たに透明なレイヤーが用意されているとみなすことです。 ツールオプションで不透明度を変更したときの効果は、 その仮のレイヤーの不透明度をレイヤーダイアログで変更するのと同じです。 このスライダは活性レイヤーに描画するブラシツールだけでなく、 すべての描画ツールの強さを調節しています。 消しゴムツールに関して言えば少々混乱しそうです。 不透明度が高いほど、 このツールが消した部分の透明感が増す結果になります。

ブラシ

ブラシ選びが、 ポインタを滑らせ描画する過程でツールが画像に及ぼす大きさと刻印の内容を決めます。 GIMPで使えるブラシは様々な種類があります。 ブラシ の節に説明があります。 インクで描画ツールを除き、 どの描画ツールに替えても同じブラシが選べます。 インクで描画ツールはオプションでの調整を経て特別に構成されたブラシを使用します。 色の現れ方がブラシと関わるのは鉛筆、 絵筆、 エアブラシの筆触ツールだけです。 それ以外の描画ツールではブラシの強度分布しか関係しません。

拡大・縮小

このオプションでブラシの大きさを緻密に調整できます。 の各キーで ±0.01 ずつ、 PgUp PgDn の各キーで ±0.05 ずつ変えられます。 マウス車での操作も環境設定で正しく設定すれば利用できます。 ブラシの大きさの変更方法 をご覧ください。

ブラシ感度の調整

図13.40 ブラシ感度の調整チェックボックス

ブラシ感度の調整チェックボックス

ブラシ感度の調整オプションは、 絶えず変化する圧力、 筆速、 不規則変化の3つの情報からひとつもしくは組み合わされた入力値を、 いろいろなブラシにまつわる変数、 少なくとも一般的にはその大きさや透明度に振り分けて反映させるためのものです。 ペンタブレットで使われる場合がほとんどですが、 筆速や不規則変化はマウスに対しても有効です。 インクツールに関して言えば、 以前から筆速対応ができていましたが、 全面改修を行ないましたので筆速に依存する描画ももっとうまくこなせるようになっています。

パスの境界線を描画機能に新たなオプションが加わりました。 パスの境界線を描画選択範囲の境界線を描画が描画ツールを使うときにブラシ感度の変化を模倣する機能のチェックボックスができています。 それらの輪郭線が伸びるにつれてブラシの圧力や筆速が変化しているとみなしているのです。 筆圧は 0 から開始し、 最大圧力まで駆け上がって再び圧力無しまで減圧してゆきます。 筆速は 0 から加速を始め、 描線の終端で最大速になります。

筆圧感知の部門はタブレットを使用している場合に限り意味があります。 ここではタブレット板に尖筆を押しあてる強度などをツールのどの相と結びつけるかを決めます。 不透明度強度割合大きさ から選べます。 かけもちが可能なので、 任意に複数の相を有効にできます。 それぞれのツールごとに利用できる相だけを列挙しています。 各相のはたらきは以下のとおりです。

不透明度

このオプションの効果は既に述べたとおりです。

強度

このオプションは輪郭のぼやけたブラシに適用されます。 オプションが有効ならば、 筆圧が強ければブラシの縁がより濃く出ます。

割合

このオプションは経過時間効果をもつツールであるエアブラシ、 ぼかし/シャープ、 にじみの各ツールに適用されます。 強く押しあてるとツールが速く作動します。

大きさ

このオプションは感圧対応の描画ツールすべてに適用できます。 オプションが有効な場合は、 筆圧の強さでブラシの描く領域が拡がります。

このオプションは鉛筆、 絵筆、 エアブラシの各ブラシツールに対して、 グラデーションで描画 オプションを活用している場合にのみ適用されます。 これらの条件が揃ったときに、 強く筆圧がかかるほどにグラディエントの高い方の色が使われます。

フェードアウト

このオプションによって一筆ごとに描線が所定の長さ以内で消え入ります。 現存する描画ツールなら視覚的にも分かり易いですが、 このオプションはどのブラシツールにも適用できます。 筆運びの軌道に沿って徐々に透明度を増すのと同じです。 タブレットをお使いの場合、 このオプションでは筆圧による効果は変化しないことにご注意ください。

揺らぎ

ブラシ描画での間隔について思い出して下さい。 描線は次々と繰り出されるブラシの刻印で成り立っており、 互いの間隔が非常に狭ければ繋がった線の姿になります。 そこで、 スライダを調節すれば、 整列していたブラシの刻印を散り散りに離すこともできます。

図13.41 揺らぎの例

「揺らぎ」の例

上から順に: 揺らぎ無し、 揺らぎ量 = 1、 揺らぎ量 = 4。


重ね塗り

重ね塗りのチェックボックスを入りにするとそのツールは重ね塗りができる状態になります。 もし無効としていたならば、 一筆ごとの描画の不透明度は決まっており、 同じ部分を繰り返しブラシでなぞっても不透明度の限界を越えて塗色されることはありません。 重ね塗りを有効にすると、 ブラシで上塗りするたびに描画効果が増します。 ただしツールに設定された不透明度を越すことはありません。 割合調節オプションつきの描画ツールは自動的に重ね塗りの効果を実現していますが、 それらを除くすべての描画ツールでこのオプションが使えます。 「レイヤーのモード」 もご覧ください。

グラデーションで描画

図13.42 描画ツールのグラデーションで描画オプション

描画ツールの「グラデーションで描画」オプション

グラデーションで描画 オプションを入りにすると、 (ツールボックスの色領域で表示されている) 描画色は使用されず、 グラデーションの色組成の順に従って筆運びの軌道に沿うように徐々に色を変えて描画されます。 グラデーションの基礎的な情報は グラデーション の節をご覧ください。

使用されるグラデーションとその敷設方針を定めるオプションがあります。

グラデーション

ここで現行のグラデーションを表示しています。 クリックするとグラデーションを選択するメニューが現れますので、 使いたいグラデーションをここで選んでください。

反転

普通はグラデーションの左端の色から筆運びが始まり、 右方向に色が移ってゆきます。 しかし 反転 ボタンで切り替えると右端の色から描線が始まり左方向に移ります。

長さ

このオプションはグラデーションの一周分を割り当てる描線の距離を定めます。 既定の単位はピクセルですが、 単位メニューを用いて別の単位を選択できます。

反復

図13.43 3つのグラデーション反復の例図、 Abstract 2グラデーションを使用。

3つのグラデーション反復の例図、 「Abstract 2」グラデーションを使用。

Abstract 2グラデーション

3つのグラデーション反復の例図、 「Abstract 2」グラデーションを使用。

なし

3つのグラデーション反復の例図、 「Abstract 2」グラデーションを使用。

ノコギリ波

3つのグラデーション反復の例図、 「Abstract 2」グラデーションを使用。

三角波


このオプションは前述のように定めた長さを越して描線がなされたときの対応を定めます。 3つの選択肢があります。

  • なし の場合はグラデーションの終端の色が描線の最後まで続きます。

  • ノコギリ波 の場合はグラデーションが始点に戻って繰り返されますが、 色の不連続が起こりやすくなります。

  • 三角波 の場合は反転を交え、 終点から始点へ、 始点から終点へと描線が続くまで繰り返されます。

3.1.3. 描画モードの例

GIMPの描画モードを使った例を以下に示します。

ディザ合成

図13.44 ディザ合成の例

ディザ合成の例

2つの描線はいずれも同じCircle Fuzzyブラシを用いエアブラシで描画。 左が標準モード、 右がディザ合成モード。


不透明度を100%未満としたどんな描画ツールで描いても、 この大変便利なモードは透過表現によらない方法で描画を果たす可能性を探ります。 つまり筆書きや塗りつぶしに対してすばらしい点描による紋様を描きます。

図13.45 ディザ合成モードで描画

ディザ合成モードで描画

この画像は背景レイヤーだけを用いて描かれ、 アルファチャンネルは使用していない。 背景色は スカイブルー。 鉛筆による描画を透過度を変えて3本: 右から 100%、 50%、 25%。 描画色の画素が描線内で拡散している。


後ろ

図13.46 後ろモードのレイヤーの例

「後ろ」モードのレイヤーの例

ウィルバーの背後に青い背景レイヤー

「後ろ」モードのレイヤーの例

レイヤーダイアログ

「後ろ」モードのレイヤーの例

パターンで埋め尽くし


このモードでは現在のレイヤーの透過部分にのみ描画できます。 不透明度が低いところほど強く描画されます。 つまり完全不透明な部分には何も描画できませんが、 完全透過な部分での描画効果は標準モードと同じです。 描画するほどにつねに不透明度が増す結果になります。 当然アルファチャンネルの無いレイヤーでは何の意味もありません。

上の例の図では最前面のレイヤーにウィルバー君が描かれ、 その周りは透明です。 その下のレイヤーは一様にライトブルーで塗られています。 次にそのレイヤー全体を選択してから、 選択範囲を塗りつぶす オプションが有効な状態で塗りつぶしツールを使いました。 塗りつぶしにはパターン (文様) を使用しています。

つぎの画像 (下図) には2つのレイヤーがあり、 上側が現在活性化しています。 あらかじめ青で横向きに2本の線が引かれています。 次に透明度を 100%、 50%、 25% と変えながら赤で鉛筆による描線をしました。 レイヤーの透明及び半透明な画素にのみ描画されています。

図13.47 後ろモードで描画

「後ろ」モードで描画

左から順に透明度を 100%、 50%、 25% と変えながら描線をした


色消しゴム

図13.48 色消しゴムモードのレイヤーの例

「色消しゴム」モードのレイヤーの例

ウィルバーの背後に青い背景レイヤー

「色消しゴム」モードのレイヤーの例

白の描画色が消された


このモードは描画色を消去して不完全透明にします。 そのはたらきは 色を透明度に フィルタに似ており、 ブラシでなぞった部分に適用されます。 このモードはアルファチャンネルのあるレイヤーでのみ有効で、 無い場合は標準モードと同一であることにご注意ください。

上の例の図では、 白色で塗りつぶしたところ、 ウィルバー君の白い部分が消えて青い背景が透けて見えます。

次の例の画像は1層のレイヤーだけ、 すなわち背景レイヤーだけを持っています。 背景レイヤーはスカイブルーに塗られ、 描画色は赤色です。 鉛筆による描線が3本あります。

  1. 青い部分に対応する色を適用: 青色だけが消えた。

  2. 赤い部分に対応する色を適用: 赤色だけがそのいずれの透明度でも消えた。 消去された部分は透明になった。

  3. レイヤーの背景色に用いられているスカイブルーを適用: この色だけが消えた。

図13.49 色消しゴムモードで描画

「色消しゴム」モードで描画

1は青、 2は赤、 3は背景色で塗った


3.1.4. さらなる情報

先進的なユーザにとっては描画ツールがサブピクセルの細かさまで処理をすすめて絵がギザギザになるのを防いでいることに興味を持たれるのではないでしょうか。 その成果は仮にCircleブラシのような縁のはっきりしたブラシを用いても、 描かれる線の画素には部分的にしかブラシの縁の特徴は出ません。 もし (選択範囲を作るときや取り込んで貼り付ける作業、 ズームを高くして画素ごとに操作する場合で必要になるかもしれない) 一切か無かの効果を得たいならば、 鉛筆ツールを使いましょう。 どのブラシを選んでもサブピクセル・アンチエイリアス効果を抑制し完全鮮鋭に描画できます。